ASDとミラーニューロンシステム—共感と行動理解を支える脳のしくみ

ASD

はじめに

2000年代後半から、ASD(自閉スペクトラム症)の症状に関係すると考えられている脳の働きのひとつに、「ミラーニューロンシステム」が注目されるようになりました。

もともとは、サルの腹側運動前野下頭頂小葉で発見された神経活動です。

人間でも下前頭回下頭頂小葉上側頭溝といった領域で、ミラーニューロンに相当する活動が確認されています。

ミラーニューロンシステムとは

ミラーニューロンシステムとはいったいどんな脳活動でしょうか。

一言でいうと「他者の運動を見るだけで自分にも同様の神経活動が見られる」という脳の働きのことです。

つまり、誰かが手を動かしたり物を取ったりするのを見るだけで、自分の脳の運動野も同じように反応する――という不思議な仕組みです。

ミラーニューロンシステムの特徴

他者の運動を見ることで、同様の神経活動が起きるとされるこのはたらきですが、これはどんな運動を見ても必ず起きるとは限りません。

ミラーニューロンは「投げる」「食べる」など、目的のある運動に反応します。

そしてポイントは、自分が実際にできる動作であることです。

さらに、普段から親しんだ活動のほうが働きやすいとも言われています。

このことから、ミラーニューロンの働きは生まれつきだけでなく、経験や学習を通して発達するシステムだと考えられています。

ミラーニューロンシステムは何に必要か?

他者の運動を見て無意識に同じように脳が働いていたとして、それが一体何の意味をなすのでしょうか?

以前は「他者の動きを真似する能力(模倣)」と関係すると考えられていました。

しかし、ミラーニューロンを持つサルには人のような模倣行動は見られませんでした。

そのため現在では、「他者の行動や表情を自分の中でシミュレーションすることで、その意味や意図を理解する」仕組みと考えられています。

これをシミュレーション説と呼びます。

感覚におけるシミュレーションネットワーク

ミラーニューロンシステムは運動における話でしたが、実は感覚においても同じような活動が起きることが報告されています。

人が触られている場面や痛みを受けている場面をみたときに活動するというものです。

たとえば、人が痛そうにしている映像を見たとき、自分の脳の「痛みを感じる領域(前帯状皮質や島皮質など)」が実際に反応することが分かっています。

これも共感性ネットワークに含めて考えられており、特に情動的共感を基盤とした他者理解に関係していると考えられています。

ASDとの関連

ASDでは、このミラーニューロンシステムの働きに違いが見られるという研究結果があります。

そのため、他者の行動の「意図」や「感情」を理解したり、自然に表情を模倣したりすることが難しくなると考えられています。

ただし、他者の心情や意図を理解する過程には、前頭前野や側頭極などの高次ネットワークも関与していることが分かっており、ASDの特性をすべてミラーニューロンだけで説明することはできません。

作業療法士の視点から考える支援

ここで大切なことは、ミラーニューロンシステムは「できる動作」ほど反応しやすいことと

ASDでもミラーニューロンシステムが働いていないわけではないということです。

したがって、ASDの子どもへの支援では、この特性を踏まえたアプローチが重要になります。

1.できる運動の幅を広げる活動

・ボールを投げる・転がす・キャッチする遊び

・ 握る・つまむ・押す・引くなどの動作を組み合わせた運動遊び

・ トンネルくぐり、平均台、ジャンプなど全身を使った活動 

→ できる動作が増えるほど、観察した動きを自分の中でシミュレーションしやすくなります。

2.口腔運動や表情筋を使う活動

・表情や舌の動きの真似っこ遊び

・ ストロー吹き・紙吹き・吹き戻し

→ 表情理解や意思表示の土台づくりに有効です。これらは社会的なコミュニケーションの基盤となります。

3.子どもが模倣しやすい「できる運動」を大人があえて行う

・子どもができる運動を課題に組み込み、大人が手本を見せる

・真似しやすい動きを提示することで、模倣の入り口をつくる

→ 「できる動作」に対しミラーニューロンが反応しやすく、模倣行動への参加がスムーズになります。

4.逆模倣を使った関わり

・子どもが取った姿勢や動きを同じようにまねる

・子どもの遊び方を真似しながら一緒に遊ぶ

→ まねた相手への注目が高まり、他者との関係性への意識を促すことができます。

まとめ

✓ミラーニューロンシステムは、他者の行動や情動をシミュレーションする脳の基盤となる。

✓ ASDではこの働きに違いが見られ、他者の意図・感情の理解の難しさに関係するとされている。

✓ 子どものできる動作を手がかりにした関わりやできる動作を増やす関わりは、他者理解へのステップをつくることにつながる。

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